STRANGE CIRCUS 奇妙なサーカス
私はもともと死刑台の上で生まれたようなものだ。
でなければ、死刑台の前で立っている母のお腹から生まれて、そのまま母の代わりに立っている女。
家のあちこちに死刑台が隠されていて、物心ついたときから、あちこちにその罠があった。
パズルを解かないと、即死刑。
「STRANGE CIRCUS 奇妙なサーカス(STRANGE CIRCUS)」(2005 日 園子温監督)108分
傑作。DVDを速攻で注文した。赤地に白抜き文字で映しだされるユイスマンス『さかしま』の一節(ギュスターヴ・モローの絵画「サロメ」「まぼろし」に関する批評の抜粋)、そこに重なる荘厳な大バッハのチェンバロ協奏曲第5番ヘ短調第2楽章ラルゴ。私を完全に打ちのめしたこの冒頭に続く近親相姦、児童虐待を初めとする35分間の異常にいやらしい変態シークエンスがあまりにも素晴らしい。その理由の半分は桑名里瑛たんの恐るべき美少女ぶりに拠るものの、明瞭な変態性のベクトルに裏づけられた倒錯イメージの奔流には驚嘆せざるを得ない。宮崎○すみがあへあへ言うのがいいかげんしつこいのと、幼児期のトラウマがもとで精神を病んだオカマ?を地で行くいしだ1世が登場したとたん画面が安っぽくなるという難点はあるのだが、「田園に死す」を思わせる要所の悪趣味イメージの強烈さ、「サンタ・サングレ」を髣髴させる夢幻的なクライマックスがただごとではない。「自殺サークル」を罵倒して冷笑していた醜悪な映画ヲタが手のひら返して褒めちぎるのも無理はありませんね(笑)。エログロ映像を彩るクラシックがまた悪趣味。バッハが使われるだけで格調が高くなるという事実をさしひいても、第二のテーマ曲にもなっている「名前のない仔犬」(園子温作詞作曲)がこれまた反吐が出そうなほど嫌らしくて心地良い。確かになかだるみ感のある物語ではあるが、重要なのは物語の謎なんかではない。ここに描かれているのは現実と不可分の悪夢であり、不快感と表裏一体になった非現実の妄執である。その夢は奇妙にねじくれて、エロティシズムの幻想に侵されている。★★