ガンバの冒険
「ガンバの冒険」(1975 日 出崎統チーフディレクター/斎藤惇夫原作)TVシリーズ全26話
「ねえみんな、俺たち間違っていたのかい? ねえみんな、俺たちはただの英雄気取りだったのかよ?」
↑泣ける
テレビで観て一目ぼれした子供むけ血みどろアニメ。化け物白イタチのノロイ一族が支配するノロイ島をめざす七匹のネズミの物語。見ず知らずの仲間を救うため、客観的にはまるで勝ち目のない相手に無謀な闘いを挑む彼ら。その理由は「シッポがうずくから」。背中に死を背負ったネズミたちが溌剌と躍動する姿に涙が出そうです。本作の魅力を挙げるときりがないが、まず目を見張るのが美術の見事さ。シルエットや色調の反転、影線の描きこみを多用した劇画タッチの背景が、いかにも漫画チックなキャラクター群と対照的でじつに効果的。ネズミ目線のダイナミックなキャメラワークと相俟って、本当に子供向けかと目を疑うような残酷シーンも非常に迫力ある演出がほどこされている。そしてさらにキャラクター描写の魅力。キャラの立った七匹のネズミたちは言うまでもないが、とりわけノロイの描写の凄まじさは類を見ないものである(ノロイというネーミングからして兇悪だが)。イタチといえばたまに田舎の道路でぺしゃんこになっている小動物を連想するが、この作品のイタチは文字通り血に飢えた化け物であって、奸智に長けた真症のサディストである。愚鈍さから来る獰猛さなどではなく、言うなればおのれの殺人哲学に従う快楽嗜好のインテリサイコなのだ。相手が悪すぎる。さらに音楽の素晴らしさも特筆すべきである。楽しげなオープニングテーマの裏側に隠された深い哀しみと絶望、それを裏付けるかのようなエンディングテーマの圧倒的な暗さ。ノロイ島上陸の夜、予想以上の化け物であることを知って打ちひしがれたガンバたち、クライマックスへ向けて加速する絶望、回を追うごとに血腥さを増す演出、迫り来る死の予感、草むらから弾丸のように飛び出す黒い影、満月を背に立ちはだかるノロイの残酷な笑み、次々に斃れていく仲間たち(葬儀シーンがいちいち美しい)、海を渡るクライマックスはまるで死地に赴くレミングのようだ。まさにハードボイルド・ネズミ・アクション。傑作。★★1/2