百頭女
『百頭女(La Femme 100 Tétes)』(1929 仏 マックス・エルンスト著/巖谷國士訳)
本当は『カルメル修道会に入ろうとしたある少女の夢』というのが欲しかったのだが、絶版で中古価格が倍になっているのでやむをえずこっちを買った。エルンスト(ドイツ人)はマグリットやデ・キリコほど有名ではないが、20世紀のシュールレアリズム運動を代表する画家のひとりです。この絵本のキショクワルイ銅版画もどきはエルンストが描いたわけではなくて、出典も不明な昔の書物の挿画とかから勝手に絵をきりはりして作り、そこへ勝手なキャプションをつけてむりやり一冊の本にまとめたもの。コラージュ小説などと呼ばれる。デペイズマンやデカルコマニーといったシュールレアリズムの代表的な手法が無意識や偶然性に依拠していることから明らかだが、各ページに文脈上のつながりはなく、キャプションにも深い意味はない。もちろん百頭女の正体も最後まではっきりしない。正直なところ、エルンストが描いた絵の方が遥かにおもしろいと思うが、本書の位置づけについては訳者がわかりやすく解説しているので興味のある人は手にすればいいと思う。アンドレ・ブルトンのおもしろくない緒言と、その筋の人のわりと恥ずかしい献辞が附録されている。★