夢の島少女
「夢の島少女」(1974 日 佐々木昭一郎監督)75分
幻のテレビドラマとして夙に名高い作品。いきなり麗子像を思わせる黒髪のオカッパ少女が夢の島に流れ着くというショッキングな導入で物語は始まります。つげ義春や寺山修司が好んで描きそうな日本的な負の情緒と少女エロティシズムがまずわたくしどものTinkoを直撃しますが、それでいて遠い異世界の出来事のような幻想的な浮遊感に満ちています。とりわけ色白の少女の胸元や足元への執拗な接写によるエロスの暗示効果は見事なものです。少女の生い立ち*1は断片的な回想シーンによって辛うじて示される程度ですが、物語そのものは本作において重要ではありません。その証拠に後半、ストーリーらしきものは次第にとりはらわれ、パッヘルベルのカノンを基調とした無言劇の様相を呈してくるのだが、過去と現在、夢と現実がモザイクのように渾然となった映像はあくまで詩的で美しく、押しつけがましさは微塵もない。逆に言うと脈絡のないイメージの積み重ねとも言えるのだが、観ているだけで非常に心地よい映像というものを久々に観た気がする。ラスト、夢の島を俯瞰するキャメラが旋回しながら遠ざかり、白い闇へと溶けこんで静かに幕を閉じる。冒頭へ戻るかのようなこのラストにより、本作は永久運動をつづけるイメージの円環となって観客の脳裏に深く焼きつけられるのである。旅とエロス(「旅の重さ」)、沈黙とエロス(モーセン・マフマルバフ「サイレンス」)といったテーマの普遍性も再確認した。★1/2