マリアの受難
「マリアの受難(DIE TÖEDLICHE MARIA)」(1993 独 トム・ティクヴァ監督)106分
ウィリアム・A・フレーカーの「恐怖の影」やロマン・ポランスキーの「反撥」を髣髴させる神経症ホラー。近年のハリウッド型アクションホラーとは対極の内面に切り込む作風で退屈しなかった。向かいの家の蔵書マニアの男がポランスキーそっくりなのはおそらく偶然ではないだろう。先の二作では性的抑圧から精神に変調を来すヒロインが描かれたように、本作もネチネチと陰湿きわまる変態的な視点で少女の生い立ちが明かされていく。初潮前後の少女期から現在の中年期にわたり三人のマリアが描かれるのだが、いずれも思わずいたぶりたくなるような暗い美少女(もどき)。おばさんになっても明らかに違和感を与える童顔が印象的だ。クライマックスの展開は非常に定型的ですが、頭の中に響く囁き声や蠅の羽音という生活ノイズのなかに紛れ込んだ崩壊の予兆によって不気味な緊張感が最後まで途切れず、偏執狂的な不安を心地よく煽る。これこそまさに映画的快楽ではなかろうか。★★