豚フルの流行につちえ(お知らせ)
「くにからのおしらせです。しんがたいんふるえんざのかんせんかくだいぼうしのため、ますくのちゃくようやてあらい、うがいのれいこうをおねがいします」
しばらく前までこんな不気味なアナウンスが車内に流れていた。電車内のマスク着用率が80%を超えていた時の話だ。安いテキスト読み上げソフトに読ませたような抑揚のない、人間なのか合成なのかわからん無機質な感じがことさらに終末感を煽る。こわいなあ、きもいなあ、てか「くに」って誰だよ(たなかくにえ?)、と思っていたのもつかのま、今週になってあっという間にマスク着用率が1桁台になった。ブームが去ったとたん、やつらはいっせいにつけていたお面を外しやがったのである。例の不気味なアナウンスも聞かなくなった。
それどころかいまだにマスクをつけているやつはおかしい、的な空気すら醸成されている。
車内でマスクをつけているのはついにわたくしだけになった。
マスクといってもブタのお面である。豚フルが流行すると聞いて、豚のフルフェイスマスクを大量に買い込んだのはわたくしのはやとちりだった。だが、警告と感染防止といやがらせを兼ねて、ブタのお面をつけて外出することにしたのは正解だった。俄然わたくしは注目をあびた。これはいける。今年はきっとブタマスクが流行る。そう思っていた矢先のブーム終了。
世間のあまりの変わり身の早さとおのれの先見の明のなさに泣きそうになった。
だいたい豚フルというかわいらしい愛称があるのに、いつのまにか新型インフルエンザというそっけない呼称に変わったのがよくない。これが定着したのはどうやら日本だけのようである。英会話学校の外人に言ったら「マジかよ。UKやメイプルタウンじゃ普通にswine/pig fluだぜ:) そしてオマエは既に感染している!(ひゃっはー)」と言われた。律儀というか節操がないというか、日本人の風見鶏体質をみごとに象徴している。
帰りに立ち寄ったスーパーで、マスクなしでゲホゲホと汚い咳をしまくっているおばはんどもを目撃。
おばはんぬは通路で井戸端会議を開きながら派手に咳をまきちらし、物色中の生鮮食品にむけて丹念におのれのしぶきをふりかけていたのである。
さすが「上沼恵美子のおしゃ○りクッキング」なんて番組を平気で放送したりする地域だけのことはある。
「くにからのおしらせです」
わたくしはかぶっていたブタのお面をはずしておばはんに近づいた。
「ぶたふるかんせんかくだいのため、ますくのちゃくようをおねがいします」
わたくしは電光石火でおばはんにお面をかぶせて逃げた。
ブヒー、という悲鳴が背中越しに聞こえたのでうれしくなった。わたくしはもう独りじゃない。
というわけでみなさん、本当の豚フルの流行はこれからです。
何しろわたくしの手元には買いだめしたヴタマスクのストックが100以上もあるのだ!
おまえは遠まきの笑いの標的 よそ者 伝説 殉教者
幼児性と栄光の十字砲火に捉えられ
でたらめな正確さで愛想を使い果たし
鋼鉄の風に乗った
タワゴト師 幻視者 絵描き 笛吹きオカマ 囚人 輝け!