紀子の食卓
「紀子の食卓」(2005 日 園子温監督)159分
「あたしの母親はコインロッカーだと言ってやった。女は号泣し、テーブルに倒れこんだ。叫んでいた。どうでもいいことだった。」
手鏡(ミラー)は横にひび割れて 1ねん1くみ うえくさかずひで
「空中庭園」の仮面家族、本作で描かれるレンタル家族。ともに虚構の自我を演じる人々の、古くて新しい寓話劇だ。失踪した娘を捜索する父親の姿は拉致被害者や脱カルトの苦悩に重なり、それがどこまでも苦悩であるという点で現代人の業を如実に示している。引き裂かれた自我をもつ現代人にとって決して他人事ではありえない話であろう。複数のペルソナを使い分け、虚構に徹するということ。単なる契約に還元しうるわたくしどもの関係とは一体何なのか。傀儡(ぬけがら)となって芝居を続ける自己の中心には限りなく透明な澄み切った闇が広がっている。その空虚な美しさ。わたくしも内面の空虚さでは人に負けない自信があるが、本作はわたくしどもの空虚な心の襞(びらびら)を深くえぐるとともに、幾重にも交錯する現実のなかで睾丸(きんたま)の座り心地の悪さを否応なく意識させる。差し出した手鏡を覗き込むもうひとつの手鏡。合わせ鏡になった現実のなかに映るパンツは果たして何色であろうか。★1/2