今日のポエム

八月の幻影（ビジョン）　１ねん１くみ　わたなべとおる

《パロマ》と書かれた看板が落ちてきて
わたくしのおやゆびを切断した午後
陰鬱な病院の待合室は
おしゃべりな死人でいっぱいでした
めかしこんだババアが入れ替わり立ち替わり
関節がどうのヒザがどうのと病気自慢に花を咲かせる
派手な水玉模様のゾンビがゆらゆら
好き勝手なことをピーチクパーチクわめきたてる
失笑を禁じえないといった面持ちで通り過ぎた美少女は
ウデゲがやばいことになっていた
わたくしはこいつらにとりついてる呪いについて考える
こいつらの顔面に貼りついているのは
生きることの醜悪さから逃れられないという業（カルマ）
飢えた豚のような浅ましい目で周囲をみわたし
どこに座ろうかなどと小市民的浅知恵を働かせている
僭越（せんえつ）にもナマイキにも
自分たちで座る場所を選ぶ自由があると思ってやがるのだこいつらは
はっきり言おう
おまえたちに決定できることなどなにひとつない
おまえたちが自分の意思でやったと思い込んでいるのは
すべてわたくしがそのように仕向け思い込ませたもの
あたかもそれがおまえたちの意思であるかのごとく
さあ庶民のみなさん
屁をこきませ高らかに
いまひとときの安寧をむさぼるがよい
ふと窓の外に目をむけると
小雨に濡れてたたずむ幽霊が
悲しそうな目でじっとこちらを見ていた
「見るな」とわたくしは言ってやりました

【コメント】切れたおやゆびはちゃんとくっついたかな？